冬の大三角とおせち料理
年越しの緑のたぬきを食べてコタツでウトウトしてたら、アリーバが頭の中に話しかけてきた。
「あけましておめでとうございます」
アリーバはオレが巨大なUFOを見てから頭の中に話しかけてくるようになった宇宙の存在。
「アリーバ、おめでとう!」
「新年早々大変恐縮なんですがあなた様に頼みたいことがありまして…」
「何?」
「困ってる人がいらっしゃるので様子を見て来ていただきたいんです。」
「やだよ、外寒いし。変な人だったら面倒だよ」
「そこをなんとか…もしもの時はアリーバが全力でお守りしますから」
「しょうがないなぁ」
「さすがあなた様はいつもお優しい。」
ダウンジャケットを着て家を出る。寒い。ほぼ丸い月が真上にある。
「どこ行けばいいの?」
「あなたがいつも行くコンビニの駐車場へ。かれこれ二時間ぐらいSOSを出してます。」
「なんなんだろうねぇ」
新年を迎えたばかりの街は、人の気配がなく閑散としている。
コンビニに着いて見渡すとゴミ箱の影にしゃがんでいる人影が見えた。
「彼ですね。後はお願いしますね。ではでは」
ちょっと、アリーバ!!…しょうがないな
ジャンパーのフードを頭からかぶって顔が見えない。
「どうした…んで」
はっとイキナリ顔を上げたからビビった。すかさず「この辺の地理くわしいすか」と聞いてきた。
あどけなさが残るやんちゃそうな顔で金髪の坊主頭だった。
「どうしたの?」
「どうもこうも、バイクガス欠するわスマホのバッテリーきれるわで」
言葉のはしばしに鼻に抜ける濁音が混ざる訛りがある。
聞けば、春から自動車整備の仕事に就いたお兄さんに実家から荷物を届けに来たという。以前、引っ越しの手伝いに来たことがあって近くに行ったら電話しようと思っていたらしい。
「スマホ切れるとやばいっすね。ライン使えないし、コンビニでPayPayも使えないし地図もみれないし。あ、この辺りに青いすべり台がある桜の木がある公園知りませんか」
ピンときた。
「すぐ近くだよ、川超えたとこ、たぶん」
「マジすか」スッと立ち上がった。
オレより顔ひとつ分背が高い。ヘルメットを中途半端にかぶり「行きましょ」とオレの意見を聞かず腕を引っ張って歩きだす。
黒いジャンパーの下に白地に金色のデカいアディダスのロゴが入ったスウェットパンツをはいていた。
自転車置き場に白くてデカいスクーターが止まっていた。つくばみらい市と書かれたかわいいご当地ナンバープレート。
「茨城から来たんだ?」
ふさふさのたぬきの尻尾みたいなやつがついたキーを刺す。スターターを数回押すも、エンジンはかからない。
「2〜3分だから置いていけば?」
「そんなに近いんですか?じゃ押してきます」
ヘルメットを持ってやった。
街灯が途切れると空に星が見えた。
「星少ないっすね。つくばはもっとたくさん見える。」
「これでも今日は結構見えてる方だよ」
「知ってます?冬の大三角」
「知らないな」
「オリオン座わかります?あの左肩の星と月の斜め下にある星とずっと下にある光ってるのがシリウス。大きな綺麗な三角形ができる」
「あ、ホントだ。三角形だ。」
橋の手前の坂に差し掛かり後ろから押してやった。橋を渡り下り坂になると彼はスクーターに乗り惰性で下って行く。
「あーわかった!あそこだ!」
街灯の下に人が立っている。大きく手を振っている。
「おんめぇどこ行ってたんだぁ?事故っだかと思うべな」
「わりー、この人いなかったらヤバいことになってたわ」
いきさつを話し始めた。
「よかったね、見つかって。じゃどうも」
兄弟は何度も何度もお辞儀をしてありがとうございましたと繰り返した。
数メートル歩いたところで「ちょっとまって!これ持ってってください。ばあちゃんが作ったおせちなんだけど」と、スクーターのシートの下から風呂敷包みを取り出し、オレに押し付けてきた。
「アニキ、明日、おれと茨城帰るって言うから。家にいっぱいあるし。ばあちゃんも絶対喜ぶし。」
静かな部屋のコタツの上。一人暮らしには似合わない豪華なおせち料理。
伊達巻、紅白かまぼこ、海老、数の子、栗きんとん、黒豆、金柑、レンコン、しいたけ、小魚の佃煮…
アリーバ、仕組んだでしょ?
スマホにLINEが入る。
姉から新年の挨拶だ。
あけましておめでとう!元気ですか?
絵文字の牛が跳ねる。
いつも既読スルーするところ。
あけましておめでとう。 元気ですよ。
と、返信した。