アリーバとのファーストコンタクト
今週のお題「好きなおやつ」
ちょうど去年の今頃。コロナ騒動の前。
新宿。
友人に約束をすっぽかされて、せっかくだからと都庁の展望台を目指す。
展望台行きのエレベーターには長蛇の列。ほぼほぼ外国人観光客でひるんだが、中に日本人らしき人もチラホラいたので列にひとりで並んだ。
カバンからムギチョコを取り出し口に入れる。
オレはムギチョコに目がない。ローソンでいつも2〜3袋買っておく。
15分程待ってようやくエレベーターに乗り込む。
展望台に着くとこれまた外国人だらけだ。日本人らしき人もよくよく見るとアジア系の外国人でアウェー状態。
微妙な緊張感の中、外の景色を見てまわる。
晴れているがガスっていて雲がポコポコ見える。
しかし外国人は自撮りが好きだな
遠くにうっすら雲に紛れて富士山が見える。周りの外国人は気づかないのか立ち止まりもせず通り過ぎていく。
誰かに伝えようと思ったが、オレは英語が喋れない。
そこに、カエルのオモチャを持ったホームアローンに出てきた子役みたいな少年が退屈そうに歩いて来た。
カエルのオモチャはゴムみたいな素材で握るとベロと目玉が飛び出るらしい。
少年に富士山を指差して「マウントフジ」と教えてみた。
少年の表情がみるみる変わり
「ウワォ!」とかすれた声をあげて、
「お母さん!富士山が見えるよ!(多分英語)」と大きな声で叫んだ。
あっと言う間に人だかりができた。
それでもなかなか見えづらいのか気づくまでに数秒かかる。周りの人に教えあいながらわかったときの表情の変化が面白い。
人だかりからようやく抜け出て、ふた袋目のムギチョコを食べていると、さっきの少年が得意げに歩いて来てハイタッチをしようと手を挙げて来たが、どう対応していいか分からずムギチョコを渡してしまった。
すると少年はさっきよりももっと目を丸くして遠くを指差した。ホームアローン2だ。
少年が指差した方を見る。
これは驚いた。
UFOだ。
さっきの富士山くらいわかりづらいがかなりの大きさだ。
少年は、またなにか叫びながらママを呼びに行った。
UFOは碁石よりも平たく雲の色に同調している。
まん丸ではなかった。丸みを帯びた五角形をしており、一つ飛び出た点を軸にゆっくりと回転を始めた。太陽を受けた面が鈍く光る。徐々に回転の速度が上がっていき、先端を上に向きをかえながら辺りの雲を巻き込んでいく。そして次の瞬間、消えた。
すごいモノを見てしまった
たった数十秒の出来事だったが周りの人は誰も気づいてない。
そこに少年がおじいさんかお父さんの手を引いてやって来た。
オレは上を指差して消えたジェスチャーをした。
見ず知らずの国で怪しい男が少年とコミュニケーションをとっているのが煩わしいのか、おじいさんはオレと少年の間に割って入り少年の髪をクシャクシャになぜながら「アリーバ、アリーバ」と呟いた。
おじいさんはオレに軽く会釈すると少年の肩に手をかけて立ち去った。
去り際、少年が振り向いてオレにガッツポーズをしてきた。オレも手を握ってガッツポーズをしてみせた。
手に奇妙な感触を覚えて、見ると、カエルのオモチャがベロと目玉を飛び出させていた。
慌てて追いかけてカエルのオモチャを渡す。少年はムギチョコを頬張りながら、バイバイと手を振った。
ムギチョコ、取られちゃったよ
おじいさんの言っていた「アリーバ」の意味が気になって、スマホで検索してみた。
どうやら、スペイン語で「上」を意味するらしい。
オレはスペイン語も喋れない。
この日から、頭の中に謎の存在が話しかけてくるようになる。
オレがどこかで落とした一粒のムギチョコをわざわざ届けるために…