若いピチピチした…笑
お題「#買って良かった2020 」
横浜の中華街の外れで安いランチを食べたあと、爪楊枝刺しながら歩いていると占いのおばちゃんに声をかけられた。
「あなた、怖い夢、よく見るでしょ」
雑踏の中、その声はオレじゃない誰かに向けられたものだと思ったが、思い当たる節がある。今朝も嫌な夢で目が覚めた。振り返ると、背の小さなオカッパ頭の大きな色の薄いサングラスをかけ、襟のやたら大きな紫色の服を着たおばちゃんがパイプ椅子に座ってこっちを見ていた。
「オレ?」自分を指差す。
「あなたよ。わたしわかるんだから。今、休憩中だからオカネ取らないよ」
おばちゃんはパックの弁当のなかの半分に切られたミカンを食べている。手首には丸い大きなガラス玉の数珠が付いている。
「あなたは自然を求めてる。自然のものに触れると怖い夢見なくなる。植物でもいいわね。部屋に飾るといいんだけど、あんたの場合、火がいいね」
「火?」
「その角曲がったところに100円ショップあるからアロマキャンドル買って家に帰ったら火をつけとくといいよ」
「あ、ありがとうございます。オレ、ここんとこホント怖い夢ばかり見てやになってたんだよね。なんでわかったの?」
「あんたの龍が言った。あたしゃ何年も占いやってるけど、あんた、今まで見た中で一番立派な龍様がおつきになられてる。あんたの役に立てて嬉しいよ」
金色の入れ歯の満面の笑顔で言った。
「火を見てると、あんたきっと龍様に気づくかもしれないねぇ。龍様に気づいたら、あんたは地球を揺るがす大物になる。」
いつのまにか、あなたからあんたになってる。
気分を良くしたオレはお守りでも買って行こうと思った。
「こんなのまやかしだから、それよりか、龍様に火を焚いてあげなさいな」
そんなこと言っちゃっていいのかよ
すぐ近くに100円ショップがあった。
どこに何があるかわからなかったので店員のお姉さんにキャンドルの場所を聞く。なぜかクスっと笑われた。
案内されながら、「オカッパおばさん?」と聞かれた。「なんで?」
「あのおばさん、あなたみたいな若いピチピチした人大好きだから。でも占いはホントによく当たるのよ。はいここ」
キラキラしたガラスの器がずらっと並んでいる。迷わずキメたいところ。
「お姉さん、どれがオススメ?」
「キャンドルホルダーとロウソクは別々に買われたほうがいいと思いますよ。私ならこの丸いのと香りはラベンダーかな」
お礼を言うと、「龍様に会えるといいですね」と満面の笑顔で言った。
家に帰って、キャンドルに火をつける。
ほのかにラベンダーのいい香りが漂う。
火が、自然を感じさせるものだとは思ったことがなかった。妙にホッとする。
風も無いのに炎が揺らぐ。
一瞬、凄く大きな龍がオレの肩に手を乗せて一緒に炎を見ている気がした。
そして本当に怖い夢を見なくなった。
買って良かった2020
100均のアロマキャンドル