あくび
今週のお題「2020年上半期」
コロナの影響で在宅で仕事をするようになって家に閉じこもっていてもストレスが溜まるので近所を散歩するようになった。
十数年前までシェットランドシープドッグを飼っていた。まだ小学生だった一人娘に散歩や世話をしっかりとするからとねだられ飼い始めたが実際、娘には懐かずほとんど私が世話をすることになった。そのせいか家族が羨むほど私になついた。名前はコロッケと娘が付けたが私はコロと呼んでいた。
コロは、とても穏やかな性格で私といる時、滅多に吠えることは無かった。
毎日早朝、散歩するのが私とコロの日課だった。雨の日も風の日も欠かさず出かけた。
近所の小さな川沿いを小一時間ほど散歩する。草野球ができる位の広場がありそこに着くとリードを解く。コロは時折私を振り向きながら元気に走り回った。私はベンチに座って穏やかにその姿を眺めている。私が口笛を吹くと真っ直ぐにコロが向かってくる。コロはご機嫌な様子でおとなしくリードをつけられるがその時何か喋りたいのかあくびをするようなもどかしい表情をよくした。
毛足が長い犬だったのでブラシをよくかけてやった。
体の一部が私と触れていると安心するらしくソファーに座っているときも、食卓テーブルで食事をしている時もテレビを見ながら横になっている時もいつもそばにコロがいた。
最後は穏やかに眠るように息を引き取った。
コロがいなくなった後、私はかなり落ち込んだが家族に心配かけまいと平静を装って過ごしてきた。
十数年ぶりに一人であの時の川沿いを歩く。草ぼうぼうだった広場は整備されてゲートボール場になっていた。新しくなっているベンチに座って目を閉じる。コロが元気に走り回っている姿を思い浮かべながらひとときを過ごす。
口笛を吹いてみた。
その時だった。
コロがいなくなってぽっかりと空いていた心に懐かしいようなもどかしいような暖かい気持ちがこみ上げてきた。
コロが、いる。
今この足元に。
コロをずっと忘れようと日々過ごしてきたがコロが私から離れる訳がない。
あくびが出そうになって大きく口を開ける。
涙が溢れて止まらない。